《問題の所在》
多重債務に陥っているときに、債権者から給与の差し押さえを受けることがあります。
差押えを受けると、原則給料の4分の1が支払われなくなり、債務を完済するまで給与の差押えは続きますので、差押えを放置しておくと生活が立ち行かなくなってしまいます。
ですから何とか差押えを解除(ストップ)しなければなりません。
このような事態に陥ってしまった場合は、気持ちの踏ん切りをつけて、「個人再生」の方法で債務整理をして、一刻も早く差押えを解除すべきです。なぜなら
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「個人再生」手続きで給与差押えをストップできる!
からです。
※「自己破産」でも差押えをストップできます。
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※注意:任意整理の方法ではストップできません。
さて、ストップする方法には、給与差押を一時「中止」させて後に受け取る方法と給与差押をいきなり「取消」す方法とがあります。
ここでは、「個人再生」の手続きで給与をストップする方法を順番(中止⇒取消)に説明していきます。
実際の手続きは複雑ですが、「個人再生」の手続きを弁護士に依頼すれば、弁護士が給与差押の解除手続きも行ってくれますので、参考までにご理解ください。
解決事例
これまで当事務所では個人再生に伴い、15件の給料差押解除を行っております。
その一例をこちらでご紹介しております。ぜひご一読ください。
給与差押の中止の方法
個人再生手続きで給与差押えを中止する方法には、
- ①個人再生申立に際し、「差押中止命令」を得て中止する方法と、
- ②個人再生「開始決定」により中止する方法
の二つがあります。
最初に、個人再生の流れの中での差押えの中止を図解しますので、理解に役立ててください。
★ポイントは、とにかく手続きを急ぐことです!! もたもたしてはいけません!!
差押中止の申立による方法
強制執行中止命令申立
個人再生を申し立てた裁判所に強制執行(差押え)の中止命令の申し立てをします。
その裁判所が中止の必要ありと判断した場合に、強制執行の中止命令が出され、これにより給与の差し押さえを中止することができます。
民事再生法第26条
裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続又は処分の中止を命ずることができる。・・(中略)・・再生債権に基づく強制執行・・・
執行停止の上申
個人再生を申し立てた裁判所が強制執行の中止命令を発した場合には、その中止命令正本を添付した強制執行中止の上申書を、差押え命令を出している裁判所(執行裁判所)に提出して執行停止の上申をします。
民事執行法第39条
強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
1 債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本
執行停止命令
執行裁判所が執行停止命令を出します。これによって、第三債務者(会社)が債権者に差し押さえた分の給料を支払うことはなくなります。
注意!!)執行裁判所が執行停止の命令を出しても、債務者は差し押さえられた分の給与額を受け取れるわけではありません。あくまで差押えが中止状態になるだけで、差押えが取り消されて効力を失うわけではありません。ということは、
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差し押さえ分の給料は雇用主の元でプールされることになり、後に再生計画認可決定が確定した段階で、その時までプールされていた給料分が債務者に支払われることになります。
詳しくは、後述の「差押中止と受取給与額」を参照してください。
個人再生開始決定により中止する方法
当然中止
個人再生の開始決定がなされると、再生債権に関するすべての強制執行手続きは当然に中止します。
強制執行中止命令申立のような特別の申立は必要ありません。したがって、個人再生申立と同時に強制執行中止命令申立をしたが、裁判所により必要なしと判断されて、申し立てが却下されても、その後個人再生開始決定が出ることで法律上当然に中止の効力が生じます。
第39条1項
再生手続開始の決定があったときは、・・(中略)・・再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続・・(中略)・・は中止(する。)
強制執行中止の上申書
開始決定が出ることで当然中止の効力が生じるとしても、個人再生を扱う裁判所と強制執行を取り扱う裁判所が別なので、個人再生手続開始決定正本を添付した強制執行中止の上申書を、給与差押えをした裁判所(執行裁判所)に提出して中止の手続きを進めます。
留保された給与の受取について
差押中止と受取給与額
給与の内、差し押さえられた部分は、差押えが中止されることで債権者への支払がストップしますが、差押えが中止されただけでは、債務者(従業員)は、差押え分を受け取ることができません。差し押さえられた給与額は、そのまま会社にプール(留保)されます。尚、会社が差押え分を供託している場合は、供託所にそのまま預けられた状態になります。
留保分の支払時期
再生計画認可決定が確定したら、差押え手続きが失効しますので、会社に留保されていた差押え分が債務者(従業員)に支払われます。
つまり、
再生計画認可家邸の確定=差押えの失効=留保分の全額受取
になるのです。
民事再生法第184条
再生計画認可の決定が確定したときは、第39条第1項の規定により中止した手続又は処分は、その効力を失う。
強制執行(給与差押)取消の方法
上述したように、中止命令は給与差押えを停止するだけの効力しかありません。つまり、差し押さえられた給与額は会社が債権者への支払いを留保することになるだけで、当然には債務者本人には支給されません。
給与の支給を満額受けるためには、再生計画認可決定が確定するまで待たなければならず、確定するのは申立から半年以上先となってしまいます。
そこで、ハードルは高いですが、再生計画認可決定確定を待たずに給与全額をもらえる方法がありますので、ご説明します。それは、
給与差押を取消してもらう
方法です。差押を取り消してもらうためには、個人再生手続開始決定後、裁判所に「給与差押取消命令」を申立てる必要があります。給与の差し押さえが取り消しになれば、再生計画の認可決定を待たなくてもその時点から給与の満額を受け取ることができ、留保されていた分も遡って受け取ることができます。
差押の取消はこれです!
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個人再生開始決定後は、給与差押えなどの執行手続きは、法律上当然に「中止」になることは説明しましたが、それとは別に、債務者からの申立により、裁判所が再生のために必要と判断すれば、強制執行の手続きの取り消しを命ずることができるとされています。
強制執行の取り消しが認められれば、その取消決定正本を差押えをしている裁判所(執行裁判所)に提出して、差押えを解除します。解除された以降は、給料の全額が受け取れるようになるとともに、留保されていた部分も受け取ることができます。
但し、法律上「再生のため必要がある」ことが要件になっていますので、申し立てにあたって、この点を明らかにしなければなりません。
民事再生法第39条2項
裁判所は、・・(中略)・・再生のため必要があると認めるときは、再生債務者等の申立てにより又は職権で、担保を立てさせて、又は立てさせないで、中止した再生債権に基づく強制執行等の手続・・(中略)・・の取消しを命ずることができる
実際のとるべき方法はこれです!
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まず、個人再生申立とともに「給与差押中止命令」を得て、差押え給与額を会社に留保してもらいます。
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再生手続開始決定後に「給与差押取消命令」を得ます。
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留保分とそれ以降の給与満額を受け取ります。。
※尚、法律上は、(開始決定前の)民事再生申立の段階で差押取消の申立をすることも可能ですが、まだ民事再生手続きが成立するかどうかもわからない段階で、裁判所が取り消し決定をすることはほとんどありません。
したがって、民事再生の申立を素早く的確に行って、早く開始決定を出してもらうことが肝心です。
いずれにせよ、中止手続きも取消手続きも面倒なうえ、迅速性を要しますので、少しでも早くこれらの手続きに熟知した弁護士に個人再生を依頼するとともに、給与の差し押さえをストップする手続きを依頼しましょう。